5月23日から26日にかけて、欧州連合(EU)の立法機関である欧州議会の議員を選ぶ欧州議会選挙が、EUに加盟している各国で行われました。
その結果、戦後のヨーロッパで中心的な役割を担ってきた中道右派と中道左派の伝統ある政党が軒並み議席数を減らした一方、左右両極の新興政党が議席を増やしました。
この選挙結果は、ヨーロッパの未来にどんな影響を与えるのでしょうか?
前編では、そもそも欧州議会とは何か、選挙では何が争点になったのかについて、わかりやすく解説します!
欧州議会とはどんな機関なのか
欧州議会は、EUの立法機関として、EUの予算案や法案を承認する権限を持った機関です。
各国の議会とは異なり、議員は法案を提出する権限を持ちませんが、予算案の拒否権を行使するなどして、EUの方針に一定の影響力を与えることはできます。
欧州議会はEUの機関の中で唯一、民意が選挙を通して直接反映されている機関であり、5年に一度行われる欧州議会選挙はEUに関するヨーロッパ各国の民意を確認できる場として重視されています。
欧州議会選挙は、それぞれの加盟国ごとに比例代表制(政党の得票率と獲得議席率がほぼ一致する選挙制度)で行われます。
欧州議会の合計議席数は751議席ですが、各国が輩出する議員の数は各国の人口にほぼ比例する形で決まっていて、最も多くの議席を持っているのはドイツで96議席、一方最も少ないのはキプロスなどの6議席です。今年の10月にEUから離脱することが予定されているイギリスからも、73人の議員が選出されます。
欧州議会で各議員は、選出された国ではなく、イデオロギーや政策に基づいて結成された「会派」で行動します。
会派は8つほど存在し、右派と左派という違いに加え、親EUか反EUか、という点でも分かれています。
今回の選挙では何が争点になったのか
EUの行政執行機関である欧州委員会の委員長は、欧州議会選挙の結果を反映して選任されます。
そのため、各会派は欧州委員長の候補を掲げて選挙に臨んでいますが、欧州委員長人事に対する有権者の関心はそれほど高くないのが実情のようです。
選挙の最大の争点は、欧州統合の今後です。イギリスのEU離脱に象徴されるように、ヨーロッパ各国ではEUに対する懐疑的な見方が強まっています。
欧州議会選挙はヨーロッパ全体で一斉に行われる唯一の選挙であり、その選挙で有権者がEUに対して批判的な世論を示せば、EUに対してそれまでの方針を変えさせる圧力として働きます。
前回(2014年)の選挙ではEUに懐疑的な政党が躍進したことで、ヨーロッパ全体でEUに対する不信感が存在することが明らかになり、2015年のイギリスの国民投票でイギリスのEU離脱が決まる遠因となったという指摘もありました。
今回の選挙でEUは、EUに懐疑的な政党が各国で勢力を強めることを懸念していました。
【後編につづく】
参考
日本経済新聞『欧州議会選挙とは 5年に1度、EU市民が投票』
日本経済新聞『EU統合試練 欧州議会選、懐疑派3割』
日本経済新聞『欧州議会なぜ重要? 人事・予算、強い影響力』
日本経済新聞『23~26日、欧州議会選』
The Guardian『EU election results 2019: across Europe』