トランプが「メキシコとの国境線を作る」と言った時、世界は「何を馬鹿なことを」と笑った。
ではなぜ、このイスラエルとパレスチナを隔てる壁には何も言わないのか。
女子大生ライターのオカワリさんに寄稿いただいている〜パレスチナの今〜
第6回のテーマは「すべてを隔てる、分離壁問題」についてです。
トランプ氏がアメリカ大統領に当選した直後のことを覚えているでしょうか。
「メキシコからの不法移民が多くいるからアメリカとメキシコの間に壁を作る!」といったことを、彼は発言していました。
その時、多くの人々がその発言に対し「何を馬鹿なことを」と笑っていたように思います。
そんな単純な、物理的な問題ではないだろう、と。
パレスチナでは当たり前のように”壁”が存在する
しかしここ、パレスチナには、ベルリンの壁の約4.7倍、完成すれば全長700km以上にもなる分離壁があるのです。この壁はアメリカの壁とは異なり、パレスチナ側の土地を奪い、またパレスチナ人の移動も妨げています。
学校、病院、仕事、お祈り・・・何をするにも、壁にある検問所を通るためにはイスラエル政府の許可が必要です。
そのためにパレスチナ人は毎朝、何十分、長い日は二時間近くかけて検問所を通ります。
今回は分離壁と移動の不自由について、パレスチナ西岸に住む大学生の女の子・レヤール(仮名)と、カフェで働いている女の子・サバ(仮名)にインタビューをしました。
「私たちは自由というものを、もう諦めたから!(笑)」
———21歳・女子大生
彼女の姉が通うビルゼイト大学
パレスチナで一番の名門大学である
Q:分離壁についてどう思いますか?
レヤール:絶対に必要のないものだよ。もともとパレスチナの土地だったところにユダヤ人がやってきて、ここは自分たちの土地だと言っている。そして私たちはもはや入ることすらできない場所もあるの。そんなのおかしいでしょ?
Q:どういう時に不自由だと思いますか?
サバ:エルサレムとか、イスラエル側に行く時、服から何から全部調べられると私たちは不自由なんだなあ、って実感するわ。
レヤール:まず、私たちは自由というものを、もう諦めたから!(笑)自由だなんて今まで感じたことないよ。でもそうだね、強いて言うなら、イスラエル政府に道で突然車を止められて、無駄に時間を取られる時かな。特にナブルス辺りは入植者がたくさんいるから、イスラエル兵士もたくさんいて、車を止められたりする。
Q:車を止める?それで彼らは何をしたいんですか?
サバ:何も!ただIDをチェックするだけ。渋滞を作りたいだけだよ。
Q:旅行などは自由にできますか?
サバ:ビザの手配はものすごく大変だけど、ヨルダンから自由に旅行できるよ。でも逮捕歴があるとそもそもヨルダンに行くことすらできない。
Q:家族に逮捕歴のある人がいると、その人もパレスチナから出られないんですか?
サバ:状況によると思う。例えば私は妹が逮捕されたことがあるけど好きに旅行できるよ。
Q:妹さんはどうして捕まったんですか?
サバ: Facebookに、「私が死んだら誰か祈ってくれるかしら」って投稿したの。それをイスラエルが見て、彼女はイスラエル兵を殺して殉教したいんだと思ったみたい。本当は全然そういう意味じゃなかったんだけどね。
レヤール:イスラエルはFacebookの公開範囲がプライベートでもなんでも、最新のITテクノロジーを駆使してチェックできるからね。
ビルゼイト大学内の食堂と自動販売機
パレスチナの大学生も日本の大学生と変わらない日常を過ごしている。
Q:今までイスラエル側に行ったことはありますか?
レヤール:ない。エルサレムにもアッカにもハイファにも。もし家族に誰か逮捕者がいたら(イスラエル政府は時々理由もなくパレスチナ人を刑務所に入れる)その人がイスラエル側に入るのは難しくなる。でも私の姉はアッカやハイファに行ったよ。大学のピクニックで、1日だけ許可が出たんだって。
サバ:私はあるよ、何回か。
Q:どう感じた?だってあそこは、もともとあなたたちの国でしょう。
サバ:そうよ、私たちの国。でもイスラエルは好きに住んでいるし、勝手にいろんなことをやってる。もう・・なんて言えばいいのかな。なんだか、言うことがないよ・・
レヤール:私たちにどうにかできることじゃないんだよ、もう。何を言ったって、何を思ったって、無駄なの。
Q:イスラエル側に行く許可証を取るのは簡単ですか?
レヤール:状況によるけど、私たちにとっては難しい。お金がたくさん取られるからね。たった一日の許可証で、5400円、時には6000円も取られるの(パレスチナ西岸の平均給料は月に75000円)。それに家族の情報も全部調べられる。例えば私の名前を彼らのパソコンに入力すると、私はどこ出身で、今何歳で、父親は誰で・・全部出てくるんだよ。それで許可が出たり、出なかったりする。でも、40歳以上の人は許可証なしでイスラエルに入れるわ。
Q:どうしてですか?
サバ:イスラエルがそういうルールにしたんだよ。イスラエル兵に攻撃したりするのは若者が多いからだと思う。年を取った人はそんなに攻撃しないからじゃないかな。
Q:イスラエル政府に対してどんな感情を持っていますか?
レヤール:(少し皮肉っぽく笑って)何も。慣れたよ、あいつらがここにいることに。彼らは今後も出ていかないよ、パレスチナに居続ける。もう、だから、このことについて考えないことにしてるの。考えたって、どうにもならないから。考えたくないの。
Q:日本人に言いたいことはありますか?
サバ:イスラエル側につくんじゃなくて私たちの味方になってほしい。私たちを助けてほしい。日本の人たちに、イスラエルが私たちに何をしているのかを知ってほしい。例えば、イスラエル兵士はパレスチナ人のどの家に突然押し入ってもいいの。これは特別な景色なんじゃなくて、普通のことなんだよ。そういうことを知ってほしい。
レヤールは21歳、サバは22歳と、22歳である私とも年齢が近く、普段から仲良くしています。でもどんなに楽しく笑い合っていても、彼女たちの置かれた状況は自分の生きていた人生からは想像もできないくらい難しく、不自由なものなのだと感じました。
他にも、夫婦旅行がしたくて何度かイスラエルに許可証を求めたものの、なぜか旦那さんの許可だけ下りず結局旅行を断念した夫婦や、日本語を勉強していて検定を受けたいけれど、イスラエル政府から許可が下りるかわからない大学生の男の子など、本当に多くの人々がこの分離壁のせいで不自由を被っています。
大学内の図書館。広く、地下の書庫やグループワーク用の部屋があるところも日本の大学図書館と変わらない。
大学近くのカフェは、ビルゼイト大学の学生で賑わう。
おしゃれなカフェが好きなところも、甘いコーヒーシェイクを飲みながら恋バナをするところも、私たち日本の大学生と何も変わらない。
イスラエル・パレスチナの問題は複雑で、「なんだか危険そう」というイメージだけで終わってしまいがちだと思います。でも、日本人の私たちが好きに海外旅行に行ったり留学をしたりしている同じ瞬間に、国内ですら容易に移動できない人々がいることを少しでも知ってほしいなと思います。(終)
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パレスチナという地から、日本の皆さんへ【長期連載〜パレスチナの今〜第一回】
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パレスチナという地での生活【長期連載〜パレスチナの今〜第2回】
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パレスチナの空手道場へ。【長期連載〜パレスチナの今〜第4回】
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