イギリス総選挙 「ザックリ」解説

日本時間の6月8日午後3時から投票が始まるイギリス総選挙。EU離脱に向けた方針やテロ対策などが争点になっている今回の総選挙ですが、圧勝が見込まれた保守党が予想に反して苦戦しています。

どうしてこうなってしまったのでしょうか?

今回の記事では、イギリスの二大政党である「保守党」と「労働党」の公約を紹介しつつ、この選挙までの展開を「ザックリ」解説します!

決選投票に向けて接戦を繰り広げているのは「保守党」と「労働党」。保守党は伝統的に右寄りで、労働組合運動に端を発する労働党は左寄りです。他にもスコットランド独立党や自由民主党、英国独立党などが議会下院の650議席をめぐってしのぎを削っています。

総選挙前の議席状況はざっとこんな感じ。過半数の325議席を僅かに保守党は上回っているのみです。「EUとの離脱交渉をイギリスに有利に進めるためには、強く安定したリーダーシップが必要だ」と訴える保守党のメイ首相は、議会の基盤を強化して離脱交渉を進めやすくするために、より多くの議席を目指して解散総選挙に踏み切りました。

今回の大きな論点は大きく3つ。

EU離脱方針、テロ対策、そして社会福祉政策です。ここでの注目ポイントは、EU離脱「方針」に関して議論されているのであり、二大政党の保守党・労働党ともにEU離脱自体は支持しているということです。

それでは、その中でも二大政党の保守党と労働党の公約を見ていきましょう。

保守党

選挙公約:「共に前に進もう(Forward, Together)」

▽EU単一市場から撤退する「強硬離脱」 ▽移民を年間10万人以下に抑制 ▽電気・ガスなど公共料金に上限設定

まずは現在の与党である保守党と、党首のテリーザ・メイ首相。保守党きってのエリート政治家のメイ首相は、初めての女性幹事長に就任するなど党内の要職を歴任し、前政権で6年にわたって内相を務め、テロ対策や移民問題などに取り組みました。

そして、去年の国民投票でEU離脱が決まったことの責任を取って辞任したキャメロン前首相の後任として、サッチャー元首相以来2人目となる女性の首相に就任しました。

今回の総選挙でメイ首相率いる保守党は、民意を尊重するとしてEU離脱交渉では、単一市場へのアクセスを失っても移民の規制を優先する方針(ハード・ブレグジット)を掲げ、「悪い合意ならないほうがましだ」として交渉決裂も辞さないとしています。EU離脱交渉に向けて強く安定したリーダーシップが必要だとするメイ首相は、より大きい過半数を議会で確保するために「解散総選挙」という大バクチに打って出ました。

移民問題に関しては経済成長に必要な人材は確保しつつも移民の増加を年間10万人以内に抑えるとし、テロ対策に関しては過激派思想の広がりを防ぐため、公共機関や地域社会の活動を通じてイギリス社会の価値観を守るように指導していくとしています。

 

労働党

選挙公約:「少数ではなく、多数の人々のために(For the many, Not the few)」

▽最低賃金の引き上げや既得権益への課税強化▽福祉政策に4兆2000億円投入 ▽離脱支持だがEU単一市場へのアクセス維持

もう一つは最大野党の労働党とジェレミー・コービン党首。コービン党首は中道左派の労働党の中でも左派の立場を取り、党の決議におよそ400回以上背くなど党内でも「異端児」として知られてきました。

今回の総選挙でコービン党首率いる労働党は、今回初めてEU離脱を受け入れる考えを打ち出しましたが、単一市場や関税同盟へのアクセス維持を目指す方針(ソフト・ブレグジット)を掲げました。イギリスに暮らすEU市民の権利を守るなど、EU側との関係を重視しています。

移民に対しては保守党に比べて寛容な姿勢をとり、移民の受け入れに上限は設けずにEU離脱後に新しい移民政策を導入し、人種による差別のない公平なルールを作るとしています。

以前はEU残留派の多かった保守党ですが、今回はEU離脱を受け入れたためEUから離脱するかは争点にはなりませんでした。あくまでそのやり方が「ハード(強硬)」か「ソフト(穏健)」か、でわかれているだけ。その代わりに大きな争点になっているのが福祉政策です。

保守党は一部の富裕層ばかりを優遇しており、労働者の立場を代弁していないとして対立軸を鮮明にしました。このため、支持基盤である労働者からの支持をしっかりととりつけるため、最低賃金の引き上げや、大学授業料の無償化、医療福祉政策に300億ポンド(約4兆2000億円)を投じることを打ち出し、その財源の確保のために富裕層や大企業への課税を強化するとしています。

そしてこの福祉政策に関して、思わぬ追い風が労働党に吹きました。高齢者在宅介護の自己負担増を打ち出した保守党の公約が全英から大バッシングをくらってしまい、急速に支持率が落ちてしまったのです。

また、22人の死者を出したマンチェスターでのテロの一因が警察官の減少にあると労働党は保守党政権を批判し、警察官を1万人増員することを公約に掲げるなど、テロ対策に関しても保守党との対決姿勢を示しています。

EU離脱方針、福祉政策、テロ対策に関して「VS保守党」を前面に出した労働党。その中でも労働党の得意分野である「福祉」を大々的に掲げることで、当初は「圧勝」が予想された保守党を猛追しています。

まとめ

今回のイギリス総選挙のまとめは大きく3つ

・保守党のメイ首相は、円滑なEU離脱交渉を進めるために解散総選挙を行った

・EU離脱に関して保守党はハード(強硬)、労働党はソフト(穏健)の方針

・争点がEU離脱方針→テロ対策・福祉政策へシフト、労働党が保守党猛追

保守党のメイ首相が仕掛けたこの解散総選挙。単独過半数を確保していた保守党が勝てなければ、「自殺」以外にほかなりません。

はたして保守党が何とか「地滑り的勝利」を掴むのか、はたまた労働党が「革命」を起こしてしまうのか。今後の展開に目が離せません。

Written by Kensho Kuremoto

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1994年生まれ。慶應大法学部政治学科を今秋卒業。ニュースをわかりやすいイラストにまとめて配信するサービス「イチメンニュース」初代編集長。ワシントンDCに留学中、現地のTV局でトランプ政権の報道に従事し、若者に情報を発信する重要性を実感する。ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際関係大学院学生研究員などを経て、POTETOに参加。好きな言葉はサンドイッチマン。