上級国民【POTETOワード】

平成から令和へと時代の移り変わりを感じる今日この頃ですが、どうやらおめでたいニュースばかりではないですね。

特に最近ニュースでよく見かけるのは高齢者ドライバーによる交通事故です。
アクセルとブレーキの踏み間違い、筋力集中力の低下、薬の副作用などによる事故が後を絶ちません。そんな中で世の関心を集めたのが池袋暴走事故です。

被害家族が会見を行うなどと異例のケースでしたが、あるワードがSNS上で飛び交いました。

それは「上級国民」です。さて今回はこの言葉の意味すること、また事故との関係性について考えていきたいと思います。

~上級国民って?~

この言葉は事故発生後、各メディアがこのニュースを伝えるごとに広まりを見せました。

なぜなら乗用車を運転していたのは、元旧通産省の官僚で、大手企業の役員を経て、勲章を受けた80代男性でした。
実名報道が一部でしか報じられていなかったり、あったとしても「さん」、「元院長」と呼ばれていた。

また事故直後に逮捕されていないことから、ネット上では「上級国民だから逮捕されないのか」といった反発の反応が見られました。

これらの反応がさらにヒートアップするきっかけとなったのが、池袋の事故から2日後に起きた神戸市中央区JR三ノ宮駅前で、市営バスが横断歩道に突っ込み、歩行者をはね、男女2人が亡くなった事故である。

こちらの事故では、バス運転手の60代男性は自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の疑いで現行犯逮捕されました。

ネット上では「(池袋事故の男性は)逮捕されないのにおかしいだろ」や「むしろ『上級国民は逮捕されない』という小噺を補強してしまった感が有るな」といった声が強まり、「上級国民は逮捕されない」という憶測が広まりました。

しかしこれは事実なのでしょうか?

~逮捕の要件とは~

通常逮捕の要件は刑事訴訟法で規定されています。
要件の中でも下記2つの要件の該当性が重要とされています。

それは、(1)逮捕の理由(2)逮捕の必要性です。

(1)逮捕の理由

条文上は『被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある』という規定です(刑事訴訟法199条1項)。
この要件を逮捕の理由と呼んでいます。

(2)逮捕の必要性

条文上『逮捕の必要性』が要件とされています(刑事訴訟法199条2項但書)。
これ自体は抽象的ですが,次のように解釈されます。

<逮捕の必要性の内容>
※刑事訴訟規則143条の3
ア 被疑者が逃亡するおそれ
イ 被疑者が罪証を隠滅するおそれ

事故の映像や事故時点での車も警察に回収されており、男性は骨折して入院していました。つまり逃亡の危険は少なく罪証の隠滅も困難でした。

警視庁はその回復を待って、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の疑いで話を聞くそうです。また共同通信は「警視庁は証拠隠滅の恐れがないと判断、男性を逮捕せず任意で捜査を進める」と報じていました。ここにきてまだ逮捕しないのかと思われるかもしれませんが、捜査対象となる人がけがや病気をしている場合には捜査よりも本人の治療が優先されることがあるのです。

容疑者として逮捕されると、長期間拘束され、取り調べを受けることになり、体力を要します。今回は87歳という高齢者の健康面を考慮したケースだったのです。

また今の検察当局は、80代以上の容疑者について原則勾留を認めないとされています。

飯塚幸三元院長(87)は今月18日に病院を退院しました。

これからもこの事故には注目が集まりそうです。

 

参考文献

・日本経済新聞『東京・池袋で歩行者絡む事故 女児含む2人死亡
・HUFFPOST『池袋の母娘の死亡事故、メディアが「容疑者」と報じない理由とは?
・FNNプライムオンライン『“上級国民”だからあえて逮捕することも 高齢者逮捕・勾留の現実

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