皆さんの地元にある図書館や博物館といった文化施設。これは、地域の教育機関でしょうか?それとも、地域の経済に貢献してくれる観光名所でしょうか?
もちろん2つの側面を持っている施設も多いでしょう?でも、その2つが矛盾してしまったら・・・?
今、その議論が行われています。
政府と自治体の方針は?
今年3月から、文科省の諮問機関である中教審(中央教育審議会)が、現在は教育機関が管理している博物館や図書館などの社会教育施設を、首長部局に移管する特例措置の導入について議論をしています。これが実現すると、「観光振興」にもっと図書館や博物館といった施設を使用しようという方向性が強まります。5月14日には5回目の会合が行われ、導入にあたっての課題やそれに対する解決方法などが話し合われました。
実は、この案は5年前の2013年にも一度議論されていました。しかし、今回の場合は、政府からの、博物館や美術館を観光資源として活用したい、という方針がうかがえます。海外からのインバウンド観光客に加え、国内の旅行客にも来てもらい、お金を使ってもらうことで、地域活性化やまちづくりに繋がるという期待があるからです。確かに、博物館を観光目的に活用するのは、本来の目的から外れてしまうかもしれません。しかし、地方自治体の財政状況が厳しくなっているため、博物館や図書館を観光資源として活用する方が賢明だという意見も出ています。
考えられるメリットはそれだけではありません。社会教育施設を首長部局に移管することで、他の部署との連携や事業計画もスピード感をもって行えるようになります。他にも、庁議報告(自治体の重要施策と課題への対応について審議したり、それぞれの部で行う事業の情報共有)での区長の発言を知る機会ができ、社会教育施設が自治体の政策課題を意識することができる、という点もあります。
自治体の思惑は?
図書館を「まちづくりの中核施設に」と考える自治体も増えています。日本図書館協会が昨年8月に行ったアンケート調査では、調査対象である1361自治体で、回答した1049自治体のうち47%が「まちづくりや地域振興に役立つ」ことを目的として運営していることが明らかになりました。また、現在既に40自治体168館を首長部局が担当しています。例えば、東京都江戸川区にある図書館では、2008年から首長部局である文化共育部が担当しています。これは、文化施設やスポーツ施設を一体として運営することが目的としています。そのほかの例として、今回の議論以前にも、佐賀県の武雄市図書館はTSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が指定管理者となっているということもあります。
この問題点は?
こうした動きの一方で、「政治的中立性」や「安定性・継続性」に対する懸念も広がっています。最近では、さいたま市の公民館が、集団自衛権の行使容認のデモについて詠んだ俳句を公民館だよりに掲載することを拒否したという問題も起きました。日本は戦後、教育が政治的な影響を受けないように一般行政から独立させている、という歴史を持っています。
つまり、教育行政は政治から独立させることで、個人の学びや、思想と表現の自由を政治的介入から守ることができます。さらに、図書館が施策に反対する内容の資料提供を制限してしまうことも考えられます。また、学芸員や司書の非正規雇用化や、首長部局移管に伴い指定管理者制度の導入が進むことが、社会教育機関としての「安定性」や「継続性」に悪影響を及ぼすとも議論された。
今回のWGに参加した慶應義塾大学の糸賀雅児名誉教授(図書館情報学)は、「日本が目指す教育は、「レイマン・コントロール(素人による統制)」だった。そのため、市民参加できるパブリック・ガバナンスをどうつくるかを考えるべきだ」と主張した。WGでは年内に結論を出す予定だとしていますが、今後の社会教育施設はどうなっていくのでしょうか。世論を含む更なる議論が求められるでしょう。
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