ポイント
・あなたが候補者になるためにかかるお金の0の数は実はこんなにあった!?
・「金をかけるだけかけたら選挙に勝てる」は怖い?公職選挙法を理解していないと簡単に陥ってしまう法律違反
・選挙にかかる金額は1年で使われる私たちの消費税の4%
目次
はじめに
衆院選公示日まであと1週間を切りました。誰が立候補するとかしないとか世間が騒がしいわけですが、あなたはこのようなことを思ったことはありませんか?
「いや、私、案外立候補出来るんじゃね?」
さて、というわけで今回は、政治家になるには避けて通れない大事な選挙についてどのくらいのお金が実際かかるのかをあなた自身でシュミレーションしてみることにしましょう。
まずはあなたの中で推し進めたい政策を頭に思い浮かべて見てください。「お弁当のポテトサラダ温め禁止」?そんなところでしょうか。
それさえ思いつけば大丈夫!さあ、行ってみましょう。
あなたの設定は、「1か月後の総選挙に急に出たくなった,今まで選挙に出たことのない右も左もわからないアツい新人」としておきます。
①【300万】供託金を準備する
この供託金が、立候補の最低条件としては高すぎるのではないかとしばしば話題になるお金です。
供託金とは、選挙に立候補する者が届け出の際に納入しなくてはならない一定の金額を指し、町村議会議員選挙では除かれることになっています。
選挙で一定の基準をクリアしなければそのまま没収されるのですが、供託金の額と没収の基準は選挙によって異なります。
例えば今回の衆議院議員総選挙では,供託金の額は300万円で,候補者の得票がその選挙区の有効投票総数の10分の1に達しないと没収されることになっています。
このような多額の供託金を払わせる一理由としては、売名行為などで選挙に出る人が増え、立候補者が乱立することを防ぐためとされています。
ですが、こうした多額の供託金が若い人の立候補を妨げる一要因となっていることも事実かもしれません。
まずは300万円がないと立候補すらできないということがわかったところで、さあ何から始めましょうか。
そう、あなたは選挙に勝つための方法を何一つとして知りません。なんせ、さっき思い浮かべた政策へのパッションだけで立候補を決意したのですから。
でも、地元の友達にも両親にも絶対勝つって言いふらしちゃった。
となると、まずやるべきはこれ。
【100万】選挙コンサルタントに頼む
皆さんは選挙コンサルタントという職業をご存じでしょうか?
彼らは地域性・思想などのポリシーとは無関係に、公約・イメージ戦術・票読み・人員手配などの選挙ノウハウを商売道具としていて、「選挙に勝つ」ためのお手伝いをしている方々なんです。
「激戦を巻き起こした新人しのぎの勝利!」といった選挙見出しの背景にはこうした方々のサポートがあったりするのです。
さて、それでも「私は自分の力だけで当選するの」という意地っ張りなあなたはここをスルーして次を見てみましょう。
③【300万】事務所を持つ
まずは拠点を確保しないことには始まりません。勝つためには、何十人もの支持者が集まれるだけの広さがある事務所が必要です。
実は選挙の時期は不動産会社にとっては非常においしい機会。選挙期間中だけの短期貸しなので、通常より割高で貸せてしまうんだとか。
選挙区でいかによい事務所を借りられるか。ここにもあなたの政治力が試されているといってよいでしょう。勝って万歳三唱をカメラに撮られるときに胸を張って手を挙げられる素敵な事務所をあなたは獲得出来るでしょうか。
④【150万円】選挙カーを借りる
(※大型タイプ、音響設備つき、公費負担あり。)
「事務所借りたらいきなり選挙カー?」と考えた方もおられるかもしれませんが、選挙においては、人の確保より先に物の確保を行うのが一般的。事務所を借りたら次は選挙カーであります。
特に今回のような準備期間が短い解散選挙、かつ、政党情勢が不安定な選挙では、立候補者も公認が下りるか下りないか、車を借りるか借りないかでバタバタしているようで、レンタカー屋さんには注文とキャンセルの電話が殺到しているという話も。
中には、定期的に選挙が来ることに目をつけて、一定数必ず注文がくるこの選挙カー商売だけをしている会社まであるんだとか。
個性的かつ人目に優しい選挙カーを借りて、人々にあなたの存在を印象付けましょう!
⑤【125万】選挙ポスターを作る
(※選挙の種類によって異なる上限枚数あり、公費負担あり。)
次に準備するモノとしては、選挙ポスターです。
選挙カーと選挙ポスターがなければ,あなたは自分の顔や名前を世間に周知させることが出来ないわけです。こうしたポスターを印刷する印刷会社は、選挙で最も儲かるとさえ言われており、上の金額に含まれたポスターだけでなく街頭での配布物や選挙はがきなど、数千枚単位の注文が殺到するのです。
また、選挙の際の印刷物は基本的に公費負担であり、役所が費用を払うので、値引き競争などもなく、まさに特需なのだそうです。
公費負担ってなんだ
ここで公費負担ってなに?と思われた方のための説明すると、
公費負担とは、立候補しようとする人の金銭的な負担を減らし、資産の多少にかかわらず立候補や選挙運動の機会を持てるようにするために作られた、「選挙運動費用の公費負担制度」というものにより保障されているものです。
「選挙運動自動車の使用」や、「ポスター作成」にかかる費用など、公職選挙法で認められている一定の選挙運動費用の所定の限度額までが、候補者に代わって公費で支払われることになります。
ですが要注意!費用は、候補者に支払われるのではなく、あらかじめ候補者と契約した業者が、選挙終了後に当該選挙管理委員会へ直接請求する仕組みになっており、公費負担は供託物没収点以上の得票が得られないと受けることができず、かかった費用全額が候補者自己負担となります。
つまり、やはり候補者の得票がその選挙区の有効投票総数の10分の1に達しなければ自己負担分になるわけです。
⑥【493万】選挙スタッフを雇う
(※車上運動員6名+事務員20名を17日間雇った場合)
場所と車があっても人がいないことには始まりません。ネット選挙が解禁され、SNS上での戦略も練られるようになったとはいえ、候補者と有権者は人と人。
多くのスタッフで地道に草の根的に支援者を集めていくことも大事となります。
実は「報酬を支払ってはいけない人」がいる⁉
しかし公職選挙法では、「お金がある人が有利に選挙戦を進められることになると不当だ」ということから、選挙運動は基本的にボランティアによって行われるべきであるとしたうえで、例外的にボランティア以外の専門スタッフへの金銭支給を認めています。
ここで難しいのが、「報酬を支払ってもよい人」と「報酬を支払ってはいけない人」の線引きです。報酬を支払ってもよいのは、ハガキのあて名書き等機械的な労務を行う労務員や事務員・車上等運動員(ウグイス嬢)・手話通訳者の3種類で、この方々は事前に届け出が必要です。
つまり、報酬を支払ってはいけない人の中には、急きょビラ配りなどを手伝ってくれることになった学生、なども含まれます。ちょっとした親心や気遣いで渡したお小遣い程度のお金でも、それが「買収」とみなされ選挙違反になってしまうわけなんですね。ただ、事前に登録さえしておけば、交通費などは支払うことが許されています。
またこれらの報酬には上限もあり、1日につき、選挙運動のために使用する事務員は1万円以下・車上等運動員(ウグイス嬢)・手話通訳者は1万5千円以下と決まっています。いずれも、超過勤務手当を支給することは許されていません。
また、人数にも制限はあり、候補者1人について1日50人を超えない範囲内で、各選挙ごとに政令で定める員数の範囲内で報酬を支給することができるとされています。
そのため、プロではなく学生を選挙ボランティアで雇う方も多いのだとか。その場合は公職選挙法により、ボランティアには一切の金銭授与、現物出資が禁止されているので、金額は安くなります。ですが、ボランティアを集めるだけの人脈と人望がより必要になります。
⑦【プライスレス】街頭に立つ
最後はもうひたすらこれですね。有権者の顔を見て、話して感じられること、伝えられることがあるはずです。まずはプライスレスな現場に立ち会い続けましょう。
以上、①-⑦までの流れをおさらいすると、
①【300万】供託金を準備する
②【100万】選挙コンサルタントに頼む
③【300万】事務所を持つ
④【150万円】選挙カーを借りる
⑤【125万】選挙ポスターを作る
⑥【493万】選挙スタッフを雇う
⑦【プライスレス】街頭に立つ
合計1468万円です。
※概算です。どこにお金をかけるかや選挙の種類で大きく変動します。
あくまでここに出した金額や出費は一例で、この他にも、看板類の作成費や新聞への広告費など、ここには書かれていない様々な経費がかかり、実際は2411万円ほどかかるとさえ言われています。
しかし先ほどあげたように、これらの中から公費で負担できる分の金額もあるので、それらの金額を引けば少しはましな金額になります。ただその公費による負担軽減には得票が必要になってくるのです。
最後に、選挙全体にかかる税金をシュミレーションしてみた
ではではここで気になる、「え、その公費って税金なんだよね?」問題。
先ほど①であげた供託金はこうした公費にあてられますが、公費は確かに税金が使われています。
ここでいう「選挙にかかる公費」は主に3つにわけられて、
ⅰ立候補者が使う事務費用(総務省/地方自治体に割り当て)
ⅱ選挙の取り締まりにかかる費用(警察庁に割り当て)
ⅲ政党交付金(政党に割り当て)
となります。それぞれについて見てみると、
ⅰ立候補者が使う事務費用(総務省/地方自治体に割り当て)
2012年12月に行われた衆議院選挙では、約588億円が使われたと言われており、その9割は選挙執行管理費といって地方自治体に割り当てられるもので、先ほどあげたようなポスター作成や選挙カー導入のための事務費用として使われます。次に多いのは候補者が新聞広告を出す際の費用でこれは同選挙で21億円払われています。
ⅱ選挙の取り締まりにかかる費用(警察庁に割り当て)
2012年の衆院選では7800万円が使われ、しかし、2013年の参院選では8200万円と、支出額が増加しました。2013年の参院選からはインターネットを使った選挙活動が解禁されたこともあり、各都道府県の警察ではサイバー犯罪対策を行っている部署の職員も動員されて捜査が行われたことが影響したとみられています。
ⅲ政党交付金(政党に割り当て)
総務省の2013年分の政党交付金使途等報告によると、衆院選のあった2012年は68億5200万円が選挙に使われたとされています。
これらの総額657.6億円は、1年で使われる税金(約101兆円)の約0.05%です。こう聞くとあまり多くない金額のように思えるかもしれませんが、これは1年で使われる消費税(約17兆円)の約4%の額ともいえるわけです。そう聞くとなんだか大きいようにも思えますよね。
あなたが自分に関係ないと思っている選挙、実は案外あなたの生活に影響のあるものかもしれません。今回のシュミレーションを見て、「いややっぱ立候補無理だわ」と思った方は、そこまでのお金を出して立候補しちゃう人ってどんな人なの、そこまでして何がしたいの、って気になっちゃうかもしれません。
「いや私ならこれいけちゃうわ」という諸君はぜひあなたのパッションを携えて立候補を考えてみちゃって下さい。
(2014年週刊ダイヤモンド2014年12月13日発行第102巻48号P.43-47)
(コトバンク:供託金より)
(弁護士ドットコムNEWS:選挙運動の「アルバイト」はルール違反!? 選挙を手伝うときの「注意ポイント」)
(選挙ナビー選挙に役立つ情報サイト)
(GIGAZINE松田馨さんインタビュー)
(解散総選挙?衆院選ではどのくらい税金が使われるのか)
(選挙公費負担.netさんより)
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