第五次エネルギー基本計画とわたしたちの未来 〜どうなる?日本のエネルギー〜

※この記事はClimate Youth Japan様にご寄稿いただきました。

 

生活になくてはならないものだけれど、ふだんは意識することが少ない、エネルギー。

でも、どんなエネルギーを使うかは、地球環境や社会のシステムのあり方に大きな影響を与えて、わたしたちの未来を左右する、本当に重要な選択。

そんな日本のエネルギーの将来のあり方が、今まさに話し合われていることを、みなさんはご存知でしょうか?

2030年に向けた日本のエネルギー政策のあり方を示す「エネルギー基本計画」の第五次計画[1]が、7月3日に閣議決定されました。105ページの長編なのですが、おおよその内容は以下の通りです。

 

地球温暖化の原因となる温室効果ガス(CO2[二酸化炭素]など)を排出しない再生可能エネルギー(再エネ)を拡大し、発電のメインとする一方で、温室効果ガスを排出する火力発電や、安全性の問題がある原子力発電への依存を減らしていくこと。

2016年時点でたった8.3%[2]しかない日本のエネルギー自給率(自然に存在する、人間に加工される前のエネルギー[一次エネルギー]を、国内で確保できる割合)を、2030年には24%まで引き上げること。

そして、2050年までに温室効果ガスの排出量を80%削減するという「地球温暖化対策計画」[3]の目標を達成するために、さまざまな選択肢の可能性を残す「野心的な複線シナリオ」を採用し、電気が余っている時にたくわえ、足りない時に取り出せる蓄電技術、水素を使ってエネルギーを貯めたり運んだりする水素社会、いまの原子力発電よりも安全性が高いとされる次世代原子力発電など、あらゆる技術に投資すること。

などが盛り込まれています。

また、第四次のエネルギー基本計画[4]が定められた2014年と比べて、「大きな変化につながるうねりが見られる」が、「完璧なエネルギー源がない現実に変化はない」として、2030年にどのようなエネルギーを利用するかについての目標は、第四次のものをそのまま引き継いでいます。それを以下に示します。

安価な石炭の割合を保ち、液化プロパンガス(LPG)を取り入れつつ、高価な石油とLNG(液化天然ガス)への依存を減らすことで、化石燃料の割合を89%から76%に下げています。同時に、再エネを10.3%から13-14%(水力を含む)に、原子力を0.8%から10-11%に増やすことで、温室効果ガス排出量の削減を目指しています。

これを見た時に、いくつかの疑問が生じてきます。

(1) 原子力をそんなに増やせるのか?

日本国内に54基ある原発のうち、2011年の東日本大震災のあとに再稼働したのは9基、再稼働の許可がおりているのは5基で、合わせて14基[5]。再稼働できるか審査を受けている途中の12基を合わせても、26基しかありません。東日本大震災の前には54基の原発が稼働していて[6]、それでやっと日本の一次エネルギーの11%(2010年)をまかなっていたことを考えると、2030年に原発で10-11%をまかなうのは、非常に難しいのではないでしょうか。2030年にはいま動いている原発のいくつかも寿命を迎えるうえに、新しく原発を作るのは、地元の住民の反対で困難な状況です。政府はこれについてはっきりとした戦略を示さず、原発の新設の議論を先送りにしています。

(2) 再エネは本当に13-14%でいいのか?

再エネの「主力電源化」をめざすと宣言しつつ、2016-2030年の14年間で、たった3%程度しか増やさないとしていることには、違和感を感じます。2013-2016年の3年間だけで、再エネは3%程度増えています[7]。本当に将来の「主力電源化」をめざすのであれば、もっと高い目標をかかげてもよいのではないでしょうか。

(3) 石炭火力発電所の新規の建設が、エネルギー基本計画の目標を上回るペースで進んでいるのではないか?

現在新しく建設中および計画中の石炭火力発電所は、日本全国で35ヶ所[8](2018年7月1日現在)あります。実際に、これらがすべて稼働すると、エネルギー基本計画の目標をオーバーするという報告があります[9]。石炭火力発電は、化石燃料を使った火力発電の中でも最も温室効果ガスの排出量が大きく、地球温暖化対策と逆行します。そのため、本当に石炭火力発電所を新しく建設するかどうかは、慎重に判断すべきでしょう。

いかがでしたでしょうか。

わたしたちの生活に欠かせないエネルギー。

その未来が、わたしたちの目の届かないところで話し合われている。

でも、わたしたちにもできることがあります。

例えば、2016年の「電力小売自由化」によって、企業が電力の販売に自由に参入できるようになり、わたしたちも電力会社を自由に選べるようになりました。そして、電力会社によって、どのようなエネルギーを使って電気を作っているかが違います。これまでと同じように化石燃料中心の会社もあれば、再エネ中心の会社もあります。そのような見方をもって電力会社を選ぶことで、電気の元となるエネルギーを、わたしたち自身で選べるようになったのです。

わたしたちの未来は、わたしたちで決める。この記事がその一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。

 

企画・執筆:Climate Youth Japan 新荘 直明

 

参考文献(全て2018年7月3日に最終閲覧)

[1] 第五次エネルギー基本計画

http://www.meti.go.jp/press/2018/07/20180703001/20180703001-1.pdf

 

[2] 日本のエネルギー 2017年度版

http://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/pdf/energy_in_japan2017.pdf

[3] 地球温暖化対策計画

https://www.env.go.jp/press/files/jp/102816.pdf

[4] 第四次エネルギー基本計画

http://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/140411.pdf

(エネルギーの構成の割合については、

長期エネルギー需給見通し

http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150716004/20150716004_2.pdf

を参照。)

[5] 日本の原子力発電の状況

http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/001/pdf/001_02_001.pdf

[6] 一般社団法人 日本原子力技術協会 原子力発電所運転実績

http://www.gengikyo.jp/db/fm/plantstatus.php?x=y

[7] 平成26年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2015)

第2部 エネルギー動向 1章 国内エネルギー動向

 

http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2015pdf/whitepaper2015pdf_2_1.pdf

[8] 特定非営利活動法人気候ネットワーク 石炭発電所ウォッチ 新設一覧表

http://sekitan.jp/plant-map/ja/v/table_ja

[9] 『増加する石炭火力発電所が日本の中長期削減目標に与える影響』 栗山昭久、倉持壮, IGES Working Paper No.WP1503 (2015).

https://pub.iges.or.jp/system/files/publication_documents/pub/discussionpaper/4852/IGESWP1503_rev.pdf

 

1 個のコメント

  • そもそもこの計画の起草案概念等が問題で、官僚の労働統計問題と同じでテキトーである(公文書として?中身がない様にしか観えない)。全数検査の精緻なデータが大切である様にクリーンエネルギーへの転換政策を推進するに日本独自でドイツの環境政策と同等かそれを上回るレベルをめざす指針と共に、法的整備、優遇政策等の有効性概念もない役人のあたり障りのない義務的で間に合わせのただのレポートの副産物であるから、妥協案ともいえない代物と見て取れるのは、地球温暖化対策やCOPの数値との整合性もなく、謙虚さや柔軟性ももたずに原子力政策に固執し、うまく行かないと見るに代替えの石炭火力で誤魔化す無責任極まりない政府・官僚の仕事がやり易いだけで都合のいいだけの範を超えない官僚ぶら下がり政府政策案と成り下がっているようにしか理解できないのは、国民・国会との議論や投票のプロセスもなく、一時的な電気自由化はあったものの国策としての具体的な推進力となる転換されたプラントや発電所はほとんどなく、エネルギー確保と云う大名目に託けて、既得権益から逸脱できない電力会社温存社会構造とむらがるヤカラ達の為の計画が反映されており本当に税金を有効活用しているとはいえない状況であるからである。国民や環境先進国ドイツのトップランナーに直に評価して貰えばわかる事である、それらの政策を指揮する責任あるものが評価されるに値する仕事をしていないのである、免職とまではいかず、給料返納で事を収めている統計問題と比較・精査しても忌々しき問題であることは明らかである。是非、統計問題と同じように過去に遡って精査・評議審査から改定政策草起案と大議論展開として無論それらに携わる全ての政府関係者・役人が責任と結果を公表・評価される体制の下、NGO・NPO等諸団体、民間・中小企業間レベル等での議論やシンポ・セミナー他を有意義的に頻繁に開催するに新クリーンエネルギー技術開発・温暖化防止策技術開発他などの有効手段ハッカソンの模索ができて様々な創出・発を促せる催しを選挙と同様に自治体管理体制で推進して貰い、国策として世界のモデルとなれるレベルまで主導・推進してもらいたいものである。社会に貢献できず利益をだせない倒産企業と同じである。
    ましてや日本は災害の多い国である、謙虚に意見を求め、忌憚・遠慮なく議論を展開し、より良い社会の構築を柔軟にしてもらいたいものだ。

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